横須哲斗のごった日記

仮面ライダーを中心にまったり語るブログ。アニメ・漫画・小説・ゲーム・映画など諸々。

映画『或る夜の出来事』感想 ~ある夜って、どの夜?~

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2ヶ月くらい前に『ローマの休日』の感想を書いたのですが、その時に名前を挙げた映画『或る夜の出来事』、ようやく見ました。

公開は1934年という、非常に古い作品。こんなのを見る気になったのは、かの脚本家・井上敏樹が好きな映画のひとつとしてインタビューで挙げていたからです。

同様のプロットを持つ『ローマの休日』より面白い!

と井上氏が言い切った本作、まずはさらっとあらすじ。

 

恋人との結婚を銀行家の父親に反対されるお嬢様・エリーは、父の制止を振り切って恋人の暮らすニューヨークへと単身旅立つ。彼女が乗り込んだのは、監視の目がない夜行バスだった。

その車両にたまたま乗り合わせた新聞記者・ピーター。自由席の取り合いでケンカになったことから、2人は顔見知りに。

エリーの正体に気付き、その逃避行を記事にしようともくろむピーターは、独占記事を書かせることを条件に、世間知らずの彼女のお守りを買って出る。(エリーとその父アンドリュース氏は作中世界では名が知れているようで、新聞に名前が載ったりエリーに懸賞金がかかったりしています)

荷物を泥棒に盗まれたり、道中の安宿で同じ部屋に泊まることになったり、バスを降りて野宿する羽目になったりしているうちに、少しずついい感じになっていく2人。

その頃アンドリュース氏は行方をくらました娘を心配し、恋人との結婚を許可する旨の声明を発表しようとしていた。果たして、旅の行方は……。

 

いや、面白かった。

外国人役者の演技の機微は私にはわからないので何とも言い難いですが、目につくような問題点は無し。バスの中の出来事がメインということで、カメラが大きく動くことも少なめですが、過不足なく情景を映してる感じ。

基本的な筋書きもまあベタですけど、時代のことを考えるとむしろこっちが後発の数々のラブコメ作品の元ネタになるんでしょうね。

私見ですが、『ローマの休日』と比べても甲乙つけがたいかなあ、と。

ヒロイン(というか女優)の可愛らしさでは『ローマ』のオードリーの方が勝っている印象ですが、『或る夜』は主人公とヒロインの掛け合いが面白い。

特に主人公ピーターはなかなかに魅力的。

平然と野宿をしたり、その辺からニンジンを失敬してきて生で食べたり、エリーの無駄遣いをたしなめたり。

眠るエリーに自分の上着をかけてやったと思えば、彼女に絡む男を追い払った直後に「きみのためにやったんじゃない」とか言ったりする、そういう優しさもいい味出してます。

「裕福ではないけど正しく育てられて、しぶとく世を渡ってきた青年」なんだなーと想像させてくれますね。

名付けてツンデレ紳士。

 

ただまあ本作を見て思ったのは、

「確かにこっちの方が井上敏樹の好みに近そう……!」

ということ。

物語後半、ついにエリーから想いを打ち明けられたピーターは、自分が貧乏であることを気に病み、結婚資金を得るため一時的に彼女のもとを離れて奔走します。

ところがピーターが姿を消したことで、彼に見放されたと勘違いしたエリー。ピーターに心惹かれながらも自ら実家に戻り、恋人との結婚式を進めようとする……。

この、ささいなすれ違いから話がこじれていく感じ!

仮面ライダー555』なんかではこのような「ザ・井上敏樹」展開が続きますが、今作の終盤もちょっとそんなノリです。

 

本作の不満を挙げるとするなら、エリーの恋人・ウエストリーですかね。

他の登場人物のセリフから、「遊び人」とか「ロクデナシ」だということが判明し、また結婚式に飛行機で乗りつけるなど派手めな性格のキャラとして描かれている(あるいは、そう描かれるはずだった)のでしょうが。

なにはなくとも出番が少ない。

あと、見た目が意外と普通の紳士っぽい。

個人的な好みとしては、もうちょっと「なんでよりによってこんな男を選んじゃうかなあ……」みたいなクズに片足突っ込んだ恋敵でもよかったのですが。

全体的にキャラが弱いんですよ、ウエストリーさん。

ピーターとエリーの小気味よい会話やリアクションで話を回しているので、余計にウエストリーの印象が弱くなる。

周りの連中からはプレイボーイみたいな評価を下されているものの、慰謝料をもらえればあっさりエリーとの結婚を諦めるなど、がめつい奴ってだけじゃないのかと。

 

あとは個人的な期待からの失望ですが、クライマックスのピーターとエリーの行動かな。

ニューヨークまでの旅費を払ってもらうという理由で、エリーの自宅を訪れたピーターは、アンドリュース氏に問い詰められて彼女への愛を告白。

その場を後にしようとしたところで、披露宴の真っ最中のエリーに出くわしてしまい、憎まれ口を叩いて立ち去るのですが……

ぶっちゃけこの辺まで私、

「こりゃあ最終的にピーターが式場に乱入してエリーを奪っていくパターンだな」

と思ってました。なにぶん古い映画なので

「ひょっとして『式場に乱入して花嫁さらって逃げる』の元ネタってこの映画なのか?」

とまで考えてた。

そして、物語は運命のシーンへ。

神父の前で夫婦の誓いを口にせず、ウエストリーを捨てて式場の裏に停めてある車へと駆け出すエリー。慌てふためく招待客たちをよそに、彼女が乗り込んだ車は走り出す!

えっ? あれ……?

お前が運転して逃げるのかよエリー!

ちなみに元ネタという点では、「女性がスカートをたくし上げてヒッチハイクすると車が止まる」というアレの起源はこの作品なんだとか。

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ヒッチハイクの時に女の子がスカートめくって……というのは映画なんかでたまに見る光景ですが、まさかこんな古い作品が発祥とは。

ともあれ総合的に完成度が高く、満足感のある映画でありました。80年前の映画なので古さを感じさせるところもあるけど、そこはご愛嬌。

 

余談ですが、ネットで本作のレビューをいろいろ見ていたところ、

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「ヒロインが男物の服を着るとサイズ合ってなくてかわいい」

というシーンの元ネタもこの作品で、

つまり近年のアニメの数々はこの映画に影響されていたのだ!

とか語ってるサイトがありました。ほんとかよ。