アニメ『艦隊これくしょん –艦これ-』第3話感想 ~おきのどくですが かんむすは きえてしまいました~
2話の感想を書くタイミングを逃した。まあ当たり障りのない特訓&サブキャラ見せの回だなーと思ってたら、続く3話で如月が轟沈(死亡)したのでちょっと驚き。
原作ゲームでも死亡したキャラクターはロスト(消滅)してしまうこともあってか、一部の界隈ではまさに「荒れるぜ!止めてみな!」状態になっている今回の『艦これ』。
今日はアニメの轟沈についてちょっと真面目に考えてみようかな、という記事。
主なポイントは以下の通り。
1・轟沈の有無
2・轟沈までのストーリー展開
3・アニメにおける轟沈の重み
1・轟沈の有無
これについては、今回で「あり」ということが確定です。
原作の『艦これ』は艦娘による部隊を組んで出撃させ、敵と戦うシミュレーションゲームですが、よほどのうっかりさんでもなければ艦娘を轟沈させることはそうそうありません。
よってこのアニメ版も、轟沈の出ない物語になる可能性がありました。
『艦これ』は第二次大戦期の艦船を題材にしたバトルであるにもかかわらず、美少女キャラクターたちの人気に立脚した作品です。轟沈や戦争モノとしての要素を持ち込まないのであれば、
・『ガールズ&パンツァー』などのようなスポ根・部活モノ風味
・『けいおん』なんかに代表されるほのぼの日常系
などといったストーリーにする、ということになるでしょう。
(ちなみに第2話まではスポ根+日常系、隠し味にお色気、という感じ)
しかし戦争モノの要素を持ち込むのであれば、なるべく早い方がいい。明るい話をさんざんやって、終盤でいきなりバタバタ人が死んでいくのもおかしいですし。
そんなわけで、第3話をターニングポイントと定めて轟沈を組み込むこと自体には問題はない、と思います。
要するに制作側が「アニメ版は戦争モノのシリアスな要素を持ち込もう。轟沈もありで行く」と決めただけの話。
あまり轟沈を望んでいなかった人もそれなりにいるとは思いますが。轟沈を見たくなかった人にはお気の毒です、と言うしかないのが正直なところ。
2・ストーリー展開
艦娘の轟沈をアニメのストーリーに取り入れるとして、「いつ」「誰を」「どのように」轟沈させるのか。
鍵になるのは、第1話冒頭での出会いから、主人公・吹雪にとっての最初の友人かつ先輩として出番を与えられた睦月。
睦月やその関係者を殺すのは、吹雪を主役にして戦争モノとしての物語を作るのであれば、理にかなった判断だと言えるでしょう。
そこで今回は、睦月の姉妹艦である如月が抜擢されました。この人選も決して間違いではありません。
問題は、如月を殺すに至るまでのシナリオ。
出撃に緊張する吹雪を以前の自分と重ねた睦月は、かつて如月が励ましてくれたことを思い出し、如月へ改めて感謝を伝えようと決める。そんな睦月は戦闘中に危機に陥るが、間一髪で吹雪に助けられ、無事に帰還。
しかし別働部隊として出撃していた如月は不意の攻撃を食らい、轟沈してしまっていた……。
新兵である吹雪の成長を見せつつ、如月を殺す、というのが今回のシナリオのキモ。
しかしその割には、第1話での初出撃や、第2話での特訓の際に、睦月・如月と吹雪の関係の強調が足りなかった。
如月はその役どころの重さとは裏腹に出番が少なく、初見の視聴者とも吹雪ともほとんど関わりを持っていません。
今回いきなり睦月の回想が入って、昔語りで如月はこんなにいい子なんだと語らせていますが、お世辞にもいいやり方とは言えず。
如月の轟沈状況は、どうやら史実に則ったものらしいので、その辺りに詳しい人間はニヤリとできる部分かもしれませんが、
アニメから『艦これ』に入った人には「ぽっと出のキャラがいきなり死んだ」ように見えるし、
ゲームのプレイヤー、特に如月のファンには「俺たちの好きなキャラを脈絡もなく殺した」ように見えてしまう
という危険をはらんでいます。
・キャラクター人気先行の作品なので、艦娘をたくさん登場させなくてはならない(日常系)
・一本のストーリーとして、新人である吹雪の成長を描かなくてはならない(スポ根)
・シリアスな話にするので、なるべく序盤で如月を殺さなくてはならない(戦争)
様々な要請があったのでしょうし、それを脚本に盛り込むのも困難だったはず。早い話が、
盛り込みすぎの弊害がここで噴出したのではないかと。
1話・2話は戦争モノにも日常系にもスポ根にも振りきれていなくて、少しとっちらかった印象だったんですよね。それぞれの要素が噛み合ってない感じ。
3・アニメにおける轟沈の扱い
ちょっとここで、原作ゲーム版『艦これ』における轟沈についてざっと説明。
ゲームにも轟沈はもちろんありますが、キャラクターの体力を確認せず進軍(=不注意)とか、轟沈に関する情報を知らずにごり押しで進軍(=無知)しない限り、艦娘を轟沈させることはめったにないのです。
轟沈には基本的にプレイヤーの意思を介在させることが可能であり、理不尽に艦娘を殺されることはまずありません。
戦争を題材にしたシミュレーションとしてはかなり「死なせにくい」ゲームだと思います。
当然、戦争モノにつきものの悲壮感なんてものを感じることも少ないつくりです。なので、アニメで出撃前に気の抜けるような会話をしていたり、戦場に出ているのに呑気な連中がいても、恐らくはさほど気にならない。原作をプレイ済みであればなおさらです。
第2話や第3話の前半を見ている時に、「ここの艦娘たち吹雪に親切すぎだろ」という印象を持ったんですよね、私。戦闘少なめで日常系のストーリーを展開するからだろうと思いつつも、違和感を覚えながら見ていたのですが、
もしかするとアニメの世界観では、ゲームの世界観よりも轟沈が起こりやすい(あるいは、ひんぱんに起こっている)のかもしれない。
素人同然の吹雪が1話で生き残ったのは単なる僥倖で、だからこそみんな、素人同然の吹雪を死なせないためにあれだけ甲斐甲斐しくしていたんじゃないか……? と考えて、ようやく気づきました。
原作ゲームの世界(=プレイヤー)とアニメの世界とでは、「轟沈」という事態への認識が恐らく違う。
ゲーム版は理不尽に轟沈することはないけれど、アニメ版は理不尽な轟沈が起こりうる世界観である。
アニメ版『艦これ』は、原作ゲームの再現ではない。ゲームの要素や二次創作ネタを組み込んだ、あくまでもまったく別の解釈による『艦これ』
ということなのですよ、きっと。
この認識のズレは、原作ゲームによる先入観と、1話・2話でスポ根&日常系に話を寄せていたから生じたものでもあります。3話のインパクトを狙った意図的なものか、単に詰め込み過ぎたせいなのかは判然としませんが。
次回、如月の死を受けて他の艦娘たちがどのように振る舞うのか?
ここからの展開によってアニメ版『艦これ』における「轟沈」の重みがある程度見えて、作風というかスタンスがはっきりしてくるんじゃないかなあ……と思っております。
商業的に成功するかどうかはさておき。
個人的には嫁艦の瑞鳳が沈められませんようにと祈るばかり。
おまけ
今回の脚本を担当した吉野弘幸氏は担当作品の内容のせいか、何かと槍玉に挙げられやすい脚本家です。
メインキャラに強い影響を与える人が死ぬ!というエピソードで起用されることが多い人なのですが、死亡までの話運びがどうにも性急な場合もあって、さほどいい評価はなされていません。
今回の如月も含め、吉野氏の一存でキャラを殺すことにしているとは限らないし、『コードギアス』とか気に入っている作品にも参加しているので、あまり悪く言いたくもないのですが、正直なところテクニカルな脚本を書ける人ではないよなぁ……と。
たぶん「あまりにも理不尽な人の死」を書かせたら天下一品。