横須哲斗のごった日記

仮面ライダーを中心にまったり語るブログ。アニメ・漫画・小説・ゲーム・映画など諸々。

『仮面ライダー剣』を探る。 ~なぜ前半は面白くないのか~

半年ほど前から東映特撮Youtube Officialで配信開始された『剣』を観ていたのですが、続きが気になったので終盤をほとんどレンタルして視聴。私としては初めての「途中で観なくなった」平成ライダーであり、通して最後までちゃんと視聴したのは今回が初となります。今までにも飛ばし飛ばしで各エピソードを観たことはあったので、エンディングもそこに至る経緯もすべて知ってはいるんですが。

 

さて、本作は典型的な「終わりよければすべてよし」作品です。序盤はグダグダ過ぎる展開や聞き取れない台詞でかなり視聴意欲を削がれるのですが、脚本家が変わったのと俳優がちょっとずつよくなってきたのとで、最終的には面白かった、という感想が出てくることが多いように思います。要するに本作の問題点というのは、「前半の出来が悪い」ということに尽きるのではないかな。パイロット(1・2話)の出来は平成ライダーの中でもワーストだと個人的には考えています。脚本家がヒーローものに特有の作法というか、シナリオの流れをわかっていなかったからこそ起きた悲劇ですね。

スーパー戦隊シリーズなんかはここを押さえたエピソードの作り方をしていて、まず前半で怪人を倒せず、ヒーロー側に問題が発生する→(場合によってはゲストキャラを問題に絡めて)ヒーローが問題を解決して怪人を倒すという、オーソドックスながらわかりやすいシナリオになります。平成ライダーも2話で1エピソードという違いはありますが、パイロットはこの流れになることが多い。特にこれが顕著なのは『仮面ライダーW』で、戦隊で活躍していた塚田氏がプロデューサーということもあってかこの形式にかなり忠実に作られており、観ていてストレスを感じさせません。

一方『剣』は開幕から洞窟&夜間戦闘と見づらいアクションが続く上に、戦闘に慣れていないライダーたちが大苦戦を強いられるので、こちらとしても素直にアクションを楽しめない。ボードという組織で働くキャラたちの性格や関係性をろくに描写することもないままに組織が壊滅してみんなポンと放り出されてしまうので、ドラマパートにも感情移入できる作りではない。『剣』前半の脚本は観ていてストレスが溜まりやすく、それが解消されない状態が比較的長く続く作りになっていると言えるでしょう。1話あたりの尺が一般的なドラマの半分しかなく、逆に放映期間は1年という長さですから、あまりにも長くストレスが継続してはいけない。スーパー戦隊をはじめとする多くの特撮ヒーローが上述のような「ベタな」シナリオ構造になっているのは、理由があってのことなんですね。

 

メイン脚本家が交代してから改善されたのはここの部分で、「2話1エピソード」という従来の作りを踏襲し、ひとつのエピソードの中で何らかの盛り上がりを用意することによって、ストレスを感じさせない構造にした。シナリオがごちゃごちゃしていなくて、前半に比べて話がスッキリしているような印象を受けるんですね。で、次第に始を中心とした物語が展開していき、最終的には――という流れです。全体通して面白かったというわけではないのですが、前半のいまいちぱっとしないシナリオからの後半部分の小気味よさもあいまって、視聴終了後には悪くなかったという感想を抱かせます。

 

初期の剣崎はいちいち台詞が恫喝めいていて、始とのやり取りもぱっとしないのですが、主人公の性格をドラマの中でもう少しまともに見せていたらよく感じられたと思います。「剣崎がアンデッドになって終わり」というエンディングをどのタイミングで決めていたのかはわかりませんが、序盤から「ダブルジョーカー」とかいうキーワードを入れているあたり、初期段階でそういう構想はあったのかもしれない。それならそれでもっと剣崎と始の絡みをちゃんとしろよ、と。

ちなみに私が「前半の脚本家はダメだなこりゃ」と確信したのは15話、名勝負との呼び声も高い橘さんVS伊坂の回ですね。小夜子を殺された怒りで橘さんが今まで勝てなかった伊坂に勝利する、という見せ場をクライマックスに持ってくるためには、エピソード前半で橘さんが伊坂を圧倒してはいけないんですよ。前半で橘さんの勝利・伊坂の敗走を描いてしまっているから、溜まっていたストレスがそこで若干発散されてしまって、カタルシスの爆発に繋がらない。橘さんは一回の戦闘で伊坂に勝利すべきだった。戦闘シーンそのものの出来はともかく、個人的な印象は前半『剣』の中でもかなり悪いエピソードです。

 

なんだか前半部分の悪口みたいになってしまいましたが、まあ仕方ないよね。後半にも粗がないわけではなく、それが気にならなくなるレベルで脚本の作りに問題があった。『剣』前半が面白くない原因はだいたいここのせい。ただ何度も繰り返し観ていると味が出てくるというか、「ほんと揃いも揃って頭悪いな―こいつら」とゲラゲラ笑いながら視聴すると案外楽しめるので不思議。