映画『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』感想 ~裏切りは、仮面ライダーの代名詞~
先日公開の映画、見てまいりました。
早いもので、『レッツゴー仮面ライダー』から始まった春のオールスター映画もこれで5本目。
では行ってみましょう。
●あらすじ
1973年2月10日。
ショッカーを全滅させ、恐るべき首領を倒したはずの仮面ライダー1号&2号の前に、未知の戦士が出現した。
彼の名は、仮面ライダー3号。その圧倒的なパワーにダブルライダーは敗れ、世界はショッカーによって支配された。
時は流れ、現在。
あれから幾人もの仮面ライダーが誕生したが、ほとんどはショッカーに倒され、ショッカーライダーと化していた。それでも不屈の闘志で戦い続ける者もいたが、彼らはショッカー、そして警視庁特状課の標的となっていた。
今、仮面ライダーBLACKこと南光太郎もまた、ショッカーに敗れて散る。
だが、最後の力を振り絞った光太郎の言葉が、特状課・泊進ノ介の胸のエンジンに火をつけた。
ここに、仮面ライダードライブとして目覚めた進ノ介の反撃が始まる。
そこへやって来たのは、あの仮面ライダー3号こと黒井響一郎。彼もまた、正義の戦士として目覚めたのだという。
しかし、進ノ介はまだ知らなかった。3号こそが、1号&2号を倒した最強の戦士であることを。そして3号の本当の目的を――!
(映画パンフレットより)
●この映画のポイント
・仮面ライダー3号の圧倒的な格好よさに痺れる
・「裏切り」の歴史改変ストーリー、だがその出来は……
・ところどころ光る部分もあるが、細部がイマイチ力不足
※以下、映画の内容に関するネタバレがあります。
◎この映画、ココがよかった
・仮面ライダー3号/黒井響一郎がかっこいい!
本作の魅力は、主役の一人である仮面ライダー3号の存在。これに尽きます。
かつて1号と2号を打倒したにもかかわらず、現代において進ノ介に手を貸す謎のライダーとして登場。
1号・2号を倒してしまったことを後悔しつつも、歴史とは「勝てば正義、負ければ悪」になってしまうのだと考える男。
改変された歴史が元に戻れば自分が消えると知りながらも、最後には歴代ライダーたちと協力してショッカーを倒すために立ち上がる男。
どことなくショッカーライダーを思わせるビジュアルと、演じる及川光博氏の好演もあって、非常にクールなキャラクターに仕上がっています。
パンフレットのインタビューによれば、本編ではオミットしたもののスタッフや及川氏の間で話題に上っていたアイデアや裏設定の類もあるとのことで。本作だけで終わらせるにはもったいない、ぜひこれから先の作品でも出してほしいライダーです。
・オリジナルキャストたちの熱演が光る!
『仮面ライダーBLACK』『RX』の倉田てつを氏。
『仮面ライダー剣』のライダーを演じた全員(顔出し出演は天野浩成氏のみ)。
昨年の『平成ライダー対昭和ライダー』にも負けない豪華キャストが一堂に会しました。
特に桜井侑斗を演じる中村優一氏は、準主役とでも呼ぶべき立ち位置で登場。エンドロールでも進ノ介を演じる竹内涼真くんの次に来るという優遇ぶり。
これが俳優復帰作となっただけに、演技にも熱が入っていて、かつての侑斗を思い出させてくれました。
他の面々も、登場シーンこそさほど長くはないもののいずれ劣らぬ活躍。
中でも倉田てつを氏が演じる南光太郎は進ノ介を正しい心に目覚めさせて落命する(もちろん不思議なことが起こって蘇るのですが)師匠ポジションで、オイシイところを持っていくなぁと感心。
変身ポーズのキレも往年以上で、スクリーンの前で大興奮。
×この映画、ココがダメだった
・まとまりのない脚本、そのあおりを受けるキャラクター
事件を追う視点人物がころころ入れ替わり、誰に感情移入していいかわからないというのが、この映画の大きなマイナスとして挙げられるでしょう。
作中ではまず1号・2号が3号に敗れて歴史改変が起き、人々の記憶も改ざん。ドライブ/進ノ介も、ショッカーの手先と化します。
正史の記憶を保持している登場人物は霧子と南光太郎だけに。当然ここで視聴者は霧子たちに寄り添うわけですが、
霧子・光太郎とも開始20分で消息不明。
視点人物は正しい心を取り戻した進ノ介に移動。
進ノ介は3号、マッハ、ゼロノスと合流して「ライダータウン」に向かうものの、
道中の敵襲で進ノ介が分断され、視点人物は3号・マッハ・ゼロノスに。
戦いの中でマッハや3号とも別れていき、ストーリーの本筋を追いかけるのはまさかのゼロノスになります。
そしてゼロノスがショッカーに追い詰められたところで、ショッカーの手先であった3号と、裏で動いて事件の謎を究明した進ノ介が登場……
と、メインキャラクターが目まぐるしく入れ替わっていく落ち着かないシナリオ。
群像劇となっているわけでもなく、話に振り回されている感が強くなります。
さらにそのせいか、仮面ライダー3号/黒井の言動にも問題が。
進ノ介たちに協力しつつも、実はショッカーの手先だった、と中盤に明かされるのですが、その割には「仲間ってのもいいもんだな」「殺したらずっと後悔する」などの言動を繰り返し、苦しい戦いをくぐり抜けてきた孤高のヒーローみたいな雰囲気をかもし出す。
個々の場面ごとにそれらしいことを言っているのですが、
「仮面ライダー3号・黒井響一郎」としての一本通った芯とでも呼ぶべきものがわかりづらく、性格や言動がその場その場でブレて見えます。
実はもともと悪のライダーだったが、進ノ介の言葉で正しい心を得る……という大まかな流れはよしとしても、肝心の進ノ介が冒頭から記憶改ざんされてるわ、光太郎と霧子&課長が殺られて唐突に改心するわ、なのに霧子たちを悼まずに3号に同行するわ、といまいち盛り上がりません。
進ノ介が正義の心を取り戻すまでのドラマが軽く感じられてしまい、そのせいで進ノ介によって正義の心を得る3号のドラマも軽くなる。
これなら『レッツゴー仮面ライダー』の二番煎じでもいいから、最初から進ノ介は正しい記憶を持ったままにした方が脚本の完成度は高まったように思います。
3号を「ショッカーに属しながら独自の美学を持つダークヒーロー」みたいにしていれば、『レッツゴー』との差異も打ち出せたかもしれないのになあ……。
3号の活躍、仮面ライダーの本懐である「裏切り」、車を用いたレース、歴代ライダーの出演、ライダーロボとの決戦、『仮面ライダー4号』との関連などなど、
「こんなことをやりたいandこんなことをやらなければいけない」という要素が多すぎ
で、それを一本のシナリオに落とし込めなかった感がありあり。
言葉を選ばずにシナリオを表現すると、「味付けを失敗したごった煮」。
・あと一歩が足りない! 残念なファンサービス
本作の中盤で本郷邸が登場するのですが、屋敷には禿頭の立花藤兵衛が控えていて、屋敷の地下に本郷の頭脳を収めた電子頭脳が……というのは、漫画版「仮面ライダー」のオマージュです。
ところが本郷が眠っていると思われたこの屋敷、実際のところ正義のライダーをおびき寄せて一網打尽にするショッカー首領の罠だった、という「裏切り」の展開が待っています。
米村正二氏は漫画版ライダーネタについて、「ディープなファンの方には楽しんでいただけるネタかなと思っています」とパンフレットのインタビューで述べているのですが、本郷の家が実はショッカー首領のアジトでした、なんて使われ方をされても素直に喜べない……。
また本作の情報解禁時に「3人目のライダーと言えばV3でしょ」という意見は当然あって、ラストでもV3が3号のことを仮面ライダーだと認める発言をします。
長らく「3号ライダー」だったV3が3号を認める……非常にいいシチュエーションです。
けれどもその割には本編では3号とV3が深く関わり合うわけでもなく、序盤で3号があっさりとV3を倒してしまって、それっきり。
「MOVIE大戦アルティメイタム」や「みんなで宇宙キター!」で石ノ森ヒーローたちをどさっと出した時なんかにも思ったのですが、
できる限りオマージュ元の作品のファンも喜ぶ使い方をしてほしいよなあ……!
新たな解釈とかリ・イマジネーションとか色々言うのは構わないし、作中で元作品の台詞をなぞるのもいいけど、もうちょっと元の作品に対する愛が感じられる扱いをしてくれないものか。
歴代作品のオマージュやファンサービスは、その作品のファンを喜ばせるためにやるのだから、そこはとことんやりきってくれよ! と言いたい。
・詩島剛と『仮面ライダー4号』問題
仮面ライダーマッハ/詩島剛は、終盤の決戦の中、怪人たちの猛攻を食らって死亡します。
ショッカーに改変されていた歴史が元に戻ったことで、剛も蘇るかと思われましたが……正しい歴史に戻っても剛の復活はならず。
多くの観客の度肝を抜いたであろうこの結末には理由があります。
エンドロールの後にちらりとその姿を現す、『仮面ライダー4号』への前振りになっているのですね。
『仮面ライダー4号』は全3話での配信を予定しているネットムービーで、その第1話を収録したDVDがこの映画の先着入場特典にもなっています。
逆に言えば剛の死亡や映画のラストシーンは『仮面ライダー4号』ありきのもので、『4号』を見ない人間へのフォローはありません。
『仮面ライダー4号』は、dビデオに加入するしか視聴手段がない(後々ソフト化する可能性はありますが)ですし、「えっ? 剛、死んじゃったままなんですけど……?」というモヤモヤを抱えたまま劇場を後にする人も出てしまうのではないかなー。
やっぱり映画は映画できっちり〆てほしいですよ。
●小ネタ諸々
・橘さん、カリスにやられてボドボドになる。
橘さん、裏切る。
橘さん、変身シーンでちょっともたつく。
僕らの橘さんは永遠に不滅だ!
・物語中盤、月夜の中で襲ってくる仮面ライダーJの姿はかなり格好良かったです。巨大な人型の敵が生身の人間を襲うシーンは「仮面ライダー」シリーズではあんまり見られないものなので、新鮮でした。
・RXが運転するライドロンが終始CGだったのがちょっと残念と言えば残念。
・魔進チェイサーの扱いの悪さに落涙必至。
・「仮面ライダーという存在そのものを消してやる」とか言いつつショッカー首領が最後に繰り出してくるのがライダーロボというのは、なんか悲しさを感じた。
仮面ライダーさえ作らなければ、ショッカーは敗れることもなかった。けれど、ライダーを倒すための兵器にも、やはりライダーモチーフを採用してしまっている。ライダーを作らずにはいられない。まるで仮面ライダーという存在に取り憑かれてしまったかのように……。
●総評
主役である仮面ライダー3号をはじめ、随所に評価できる部分もありますが、一本の映画としての完成度という点では、ツッコミどころ満載であんまり褒められない出来栄え。
そろそろオールスター映画も厳しくなってきたのではないかなあ、と思います。
それでも、歴代ライダーの本人出演がこれほど見られるというだけで嬉しくなりましたし、連綿と続いてきた仮面ライダー、およびその作品に関わってきた無数の人々の存在を感じることもできました。
いわば「歴史」をめぐる物語だった本作ですが、仮面ライダーというシリーズもすっかりひとつの「歴史」になったんだな、ということを実感した一本。