アニメ『RAIL WARS!』に学ぶシナリオ構成術 その1 ~はじまりはいつも突然~
あなたは、どんなアニメが好きですか?
キャラクターが可愛いアニメ、演出が優れているアニメ、
それとも……シナリオが面白いアニメ?
「脚本が酷いと言われているアニメ」を好きな人、いると思います。何を隠そう私もその一人。
もちろんシナリオが綿密に整った作品も大好きですが、それに負けないくらい、問題点がそこかしこにある作品も嫌いになれません。
『コードギアス』とか『ギルティクラウン』とか『革命機ヴァルヴレイヴ』がお気に入りだ!
と言えば、ここ数年の深夜アニメに詳しい方々にはわかっていただけるでしょう。同意が得られるかどうかはさておき。
要は、シナリオに改善の余地がある/想像の余地があるアニメに魅かれるのです。
「この回でこいつがこうしていたら、次回ではこうなっていたはずだ」とか、シナリオのIf展開を妄想するのが楽しいんですよ。
さて、ここからが本題。
この2014年夏のアニメで、私がむしょうに気に入った作品……それは、タイトルにもあります『RAIL WARS!』。
作画は荒れ気味、脚本は強引、とってつけたようなお色気要素の連続
とお世辞にも評価の高いアニメとは言えないでしょう。
それでも私は、この作品を非常に気に入りました。その理由は明快、
シナリオにわかりやすく改善の余地が見られるからです。
もっとしっかりした脚本だったら、素直に楽しめていた半面、ここまで気に入ることはなかったはず。
今回は、『RAIL WARS!』のシナリオの何がダメなのか? ということを考えてみます。ちなみに私、原作は完全にノータッチです。あくまでアニメを視聴しての印象ということでひとつ。
まずはおおざっぱなあらすじー。
国鉄(日本国有鉄道)が民営化されなかった日本。
運転手を目指して国鉄のOJT(職業研修)に参加した主人公・高山は、望んでいた運転課ではなく、「鉄道公安隊」――鉄道犯罪に対処する部署へ配属されてしまう。
事前訓練で知り合った仲間たちと共に、公安隊の部署のひとつ「警四」で働くことになった高山。しかし研修開始早々、部署の班長代理として、チームのリーダーを任されることになり……。
ということで、具体的に見ていきましょう。
本作は大まかに、第1部(1話~5話)と第2部(6話~)に分けられます。
第1部は高山がメインヒロインのあおいに認められるまでの物語。
第2部では夢を追いつつも、今の仕事にやりがいを見つけていく高山の姿が描かれます。
全体を通してのシナリオとしては、「高山と仲間たちの成長と活躍」を見せたいのだと思われます。
第1部は、「俺は運転手になりたいのに……」とぼやく高山が、「てめーなんぞにリーダー任せられっかよ!」というあおいと衝突しつつも、事件を解決していくストーリー。
高山は運転手になりたい鉄道オタクで、平和主義のデスクワーク派。
あおいは警察官の父に憧れ、大事件を解決することを夢見る少女。事件のたびに首を突っ込みたがる肉体派。
どちらも仕事への情熱は人一倍あるものの、いつもケンカしてばかり……。
この構造は、早い話がバディもの。
『相棒』『ラッシュアワー』『TIGER&BUNNY』、
仮面ライダーで言えば『電王』『W』『オーズ』あたりの、
「凸凹コンビが次第にお互いを認め合っていく」王道パターン……なのですが。
今回解説するのは第2話。
高山の班長代理就任と、あおいがほんの少しだけ高山を認める、バディものとしてのターニングポイントです。
問題点のわかりやすい、お手本のような反面教師。
横浜駅に爆弾を仕掛けたとの予告が入り、公安隊が出動。しかし高山たち警四に与えられた仕事は、東京駅の巡回と雑用であった。
大暴れしたいあおいは不平混じりに雑な仕事をする一方、高山は「お客様第一!」と真面目に仕事を進めていく。
そんななか東京駅で小規模の爆発が発生、爆弾犯から1億円の要求がなされる。横浜の予告は公安隊を誘い出す囮であり、本命は東京駅に仕掛けられていたのだ。
爆弾処理班が戻るまでにせめて爆弾を見つけておこう、と提案する高山。捜索のすえ爆弾は見つかるものの、爆発までの時間は15分と短く、とても処理班は間に合わない。
あおいは高山の制止を無視し、独断で爆弾の解除に取りかかる。だがあと一歩のところで切るコードを間違え、解体に失敗してしまう。
タイムリミットが迫る状況で、あおいは高山に爆弾を預け、「わたしを信じて」と言い残して走り去る。取り残され、不安を覚えながらも逃げ出さずに爆弾を見守る高山。
残り時間が1分を切った直後、あおいが戻ってきた。爆弾を止めるための液体窒素を取りに行っていたのだ。すんでのところで爆弾の停止に成功したあおいは、「自分を信じてくれてありがとう」と高山に感謝の言葉を述べる。
その後、高山は班長代理に任命されることに。喜ぶ仲間たちの中で一人、あおいだけが「どうしてこんな軟弱者を」と反対するのだった……。
どこがダメなのかおわかりでしょうか。正解は、
爆弾を止め、あおいが高山を認めた後に、
あおいが高山のリーダー就任に反対する
――という流れになっていること、でした。
バディもののシナリオの要点は、「反発していた相手を認める」ことにあります。
よって、物語におけるキャラクターの心情は必然的に
「相棒を認めない」→「事件を解決して相棒を認める」
という流れになります。
……というか、バディものに限らず、「キャラに対する他のキャラの好感度を上げる」際の基本的な動かし方ですね、これは。
しかし第2話では、あおいの心情が
「事件を解決して高山を認める」→「高山を認めない」
という流れになっているのです。
ダメだこりゃ。
このエピソードは、高山が班長代理に任命されるシーンを冒頭に持ってくると、シナリオの印象がけっこう変わります。
- 高山が班長代理に任命される
- あおいが反発する
- 爆弾解除を経てあおいが高山を認める
こちらの方がストーリー構成としては自然。
リーダーとしては不適格だと思っていたけれど、業務を真面目にこなす姿勢、爆弾を探そうと提案する様子、そして自分を信じ爆弾を引き受けてくれた度胸、これらによってあおいは高山を少しだけ認める――
平たく言えばデレる、という結果が導かれるはず。
放映された本編では、3番が最初に来ているので、後半部分の違和感がすごい。
おまえ直前のシーンで高山にお礼言いながらしなだれかかってただろうが。
鳥頭か。
この第2話に限らず、『RAIL WARS!』は、全体的になんとなく話が雑だな、と感じます。第2話が一番ダメだったのは確かですが。
脚本に凝るよりお色気シーンに制作リソースを投入した方が売上は増すとか、そういうことなんでしょうか……。
つづく!
●おまけ
『RAIL WARS!』の脚本家は誰なんだろう、と調べてみたところ、鈴木雅詞さんという方がシリーズ構成(各話脚本も担当)でした。
代表作は以下の通り。
・SHUFFLE!(2005)シリーズ構成
・みなみけ ~おかわり~(2008)シリーズ構成
・かのこん(2008)シリーズ構成
・聖剣の刀鍛冶(2009)シリーズ構成
・織田信奈の野望(2012)シリーズ構成