「映画クレヨンしんちゃん DVDコレクション」レビュー&『オトナ帝国の野望』感想
先日創刊!
デアゴスティーニより発売の「映画クレヨンしんちゃんDVDコレクション」買ってきました。
タイトルの通り、1993年から毎年公開されてきたクレしん映画のムックです。ラインナップは隔週刊で全21号(昨年公開の『逆襲のロボとーちゃん』を除く)、各号に歴代作品のDVDが付属、という一品。
お値段は創刊号のみ800円、第2号からは1500円(ともに税込)。
先月に偶然その存在を知り、ひそかに楽しみにしておりました。というのもこのシリーズ、発売される順番が映画の公開順ではありません。
創刊号が『オトナ帝国の逆襲』(2001)
第2号が『アッパレ戦国大合戦』(2002)
第3号が『ヘンダーランドの大冒険』(1996)
以後、『アクション仮面VSハイグレ魔王』(1993)『暗黒タマタマ大追跡』(1997)と続く予定。世間一般に知名度のある2作をトップバッターに、以後は順序変えつつ旧作から新作へ……といった感じでしょうか。
創刊号に収録の『オトナ帝国の逆襲』と言えば、90分という短さながら「笑い」「泣き」「燃え」がふんだんに盛り込まれた良質なストーリーで、「クレヨンしんちゃん」に対する世間の評価を大きく様変わりさせた一本です。
「クレしん映画にこまごました特典とか求めないし、普通にDVD買うより安上がりだな!」と昨日書店で確保。
いやマジで、この創刊号だけでも押さえておく価値は十二分にあります(ダイレクトマーケティング)。
まずは創刊号のレビューから。
といっても、語ることはほとんどないのですよね……。
ムック部分については、この商品のターゲットに幼児~児童が想定されているという事情があるのでしょうか、さほどディープではありません。
登場人物紹介、大まかなストーリー紹介、本作に散りばめられた小ネタの紹介などが各2ページ。ストーリー紹介も「果たしてしんのすけは未来を守れるのか!?」と途中で終わっており、かなり「子供向け映画のパンフレット」的な雰囲気が強いデキ。
というか、歴代映画の紹介と定期購読の広告がムック部分の半分を占めるってどうよ。
DVDの方ですが、トールケースに入れられたごく普通のディスクです。映像特典として特報と予告編を収録。
元が21世紀の作品だし、画質もそこまで悪いとは感じません。大画面で見るとちょっと粗が目立つかも? 一般家庭のテレビで観るなら必要十分かな。
気になるのは本編が始まる前に「デアゴスティーニ」のロゴがどーんと出るくらいのもの。市販のDVDの値段がこのムックの2倍程度ということを考えると、これくらいは許容範囲ではないでしょうか。
さて本編の話。
まあ超有名な作品ですし、ちょっと探せば様々な視点からの感想がネット上にいくらでも転がってはいるのですが。
一応ざっとあらすじ。
昔懐かしの文化を再現した「20世紀博」が春日部を始めとした日本全国で開催される。辟易する子供たちをよそに、昭和時代の文化が大人たちの間で一大ブームとなっていた。
だが20世紀博は、「懐かしいにおい」によって大人を操り、日本を20世紀に回帰させようと目論む「イエスタディ・ワンスモア」の隠れ蓑であった!
そんなある日、20世紀博からの「お迎えにあがります」というメッセージがテレビで放送。それを見た大人たちは、仕事も家事も我が子も放棄し、20世紀博へ向かってしまう。
残された子供たちを捕まえるべく迫る、オトナ帝国の刺客。果たしてしんのすけは家族を元に戻せるのか。奪われた21世紀の未来を、手に入れることができるのか……?
という感じで。
この映画を見るのは10年ぶり3回目くらいなのですが、記憶があやふやになっていた部分もあり、色々な発見ができました。
まず、覚えていた以上にしっかりした脚本だった。約30分×3パートで、それぞれのパートのコンセプトがはっきりしています。
1・20世紀博の紹介。大人が子どもと化し、街からいなくなる恐怖。
2・かすかべ防衛隊の逃亡。ギャグのオンパレード。
3・野原家の復活。未来を手に入れるための戦い。
第3パートでは完全に野原家VSケンの戦いに注力されており、捕まったかすかべ防衛隊のフォローなどはありません。そこはちょっと残念かな? とも思ったのですが、防衛隊はこの映画においてはあくまで「子供の代表の一員」であって、しんのすけとひろしを再会させることができればもう十分に仕事を果たしているのですよね。
そしてこの『オトナ帝国』の大切な要素のひとつとして、「足」があります。
ひろしが元に戻るのは足の匂いだし、名場面である回想シーンでは、しきりにひろしが歩くカットが挿入されます。クライマックスのタワーを駆け上がる展開の前後にも、「親からもらった足があんだろ!」というひろしの台詞、「最近走ってないな」というケンの台詞が。
自身の足の匂いによって、ひろしは自分の生きてきた道のりを思い出す。現在はつらいこと、苦しいことばかりじゃない。過去は確かに幸せだったが、そこから歩いてきた現在にも幸せなことはあった。
父が「親からもらった足」で自転車に乗せてくれた幼少時代。それは幸せな記憶であり、ひろしにとって「幸福」「家族」の象徴として存在する。
そんな自分も親になり、「親からもらった足」でしんのすけを後ろに乗せて、家族とともに自転車を漕いだ。
そしていつか、しんのすけにも同じように、我が子を後ろに乗せて自転車を漕がせてやらなければ(=しんのすけを幸せにしてやらなければ)ならない。しんのすけを幸せにしてやりたい。それが家族というものなのだと、ひろしは気づく。
だから、気が狂いそうになるくらい懐かしい過去に涙しながらも、ひろしはしんのすけを胸に抱く。「俺は家族と一緒に未来を生きる!」と、ケンに啖呵を切ってみせる。
ひろしの回想からの一連のシーンはほんとに名シーン。脚本・演出・音声、全力で泣かせにかかってきます。いつ見ても涙。
あと今回見て一番強く感じたのは、
『オトナ帝国』で描かれている21世紀初頭もまた過去のものになってしまったのだ
ということ。
VHSのビデオテープを見る人々。箱のようにデカいデスクトップPCに四苦八苦するひろしの姿。それらは2015年の現代からすれば明らかに「過去」です。
スマホはおろか誰も携帯電話すら使ってないしなあ。
20世紀への回帰をやめ、命を捨てることもやめて、「21世紀」を生きる決意をしたケンとチャコ。ふたりの眼に、2015年という今の世の姿はどう映るかなあ……と考える冬の夜でした。